Introduction
石川県の冬を代表する郷土料理の一つが「かぶらずし」です。
厚く切ったかぶらに塩漬けしたブリを挟み、米糀や人参、柚子などとともに漬け込んで作られます。かぶらの甘味、ブリの旨味、糀のまろやかな風味が調和した、石川県ならではの冬の味覚です。
年末からお正月にかけて食卓に並ぶことも多く、塩加減や糀の甘さ、漬け込み方などには、地域や家庭ごとの味があります。
そのかぶらずし作りに欠かせないのが、厚く切ってブリを挟める大きさに育った青首のかぶらです。
石川県で、かぶらずし用の青首中蕪として主に栽培されているのが、武蔵野種苗園の「百万石」です。
「百万石」は、首部がきれいな青色に着色し、球全体に光沢が出る青首カブです。肉質は緻密で軟らかく、甘味が強いため、漬物をはじめ、スープなど幅広い料理に利用できます。また、根こぶ病耐病性に優れ、比較的栽培しやすいことも特徴です。
この記事では、かぶらずし用の青首中蕪「百万石」の特徴と、石川県での栽培を基準にした種まきから収穫までのポイントをご紹介します。
青首中蕪「百万石」とは
「百万石」は、武蔵野種苗園の青首カブです。
特徴は下記の通りです。
- 根こぶ病耐病性に優れ、栽培しやすい
- 首部がきれいな青色に着色する
- 球全体に光沢がある
- 肉質が緻密で軟らかい
- 甘味が強く、食味に優れる
- 漬物やスープなど幅広く利用できる
在来の金沢青カブに比べて早生で、生育の揃いがよい品種とされています。
根部は球形で、首部から球の半分ほどまで緑色に着色します。肉質は柔らかく、甘味があり、在来の金沢青カブに比べると香りはやや穏やかです。
「百万石」の主な特徴
根こぶ病耐病性に優れる
「百万石」は、アブラナ科野菜で問題になりやすい根こぶ病に対して、優れた耐病性を持っています。
ただし、耐病性があっても病気がまったく発生しないわけではありません。アブラナ科野菜の連作を避け、排水対策や土壌酸度の調整と組み合わせて栽培することが大切です。
首部がきれいな青色になる
地上に出た首部がきれいな青色に着色し、白い根との美しい色合いを楽しめます。
また、球全体に光沢があり、見た目にも美しい青首カブです。
肉質が緻密で軟らかい
肉質は緻密でありながら軟らかく、甘味が強い品種です。
かぶらずしをはじめとした漬物のほか、煮物やスープなどにも利用できます。
早生で生育が揃いやすい
在来の金沢青カブより早生で、生育の揃いがよい品種です。
根は丸みのある球形に育つため、厚めの輪切りにして使用するかぶらずしにも扱いやすい形です。
「百万石」がかぶらずし用に栽培される理由
かぶらずしは、大きく育てたかぶらを厚めの輪切りにし、中央に切り込みを入れて塩漬けしたブリを挟んで作ります。
そのため、かぶらずし用のかぶらには、次のような性質が求められます。
- ブリを挟める大きさに育つ
- 厚く輪切りにしやすい
- 丸みのある形に育つ
- 漬け込んだ際に味がなじみやすい
- 甘味と適度な食感がある
- 根の大きさや形が揃いやすい
「百万石」は、丸みのある球形に育ちやすく、肉質が緻密で軟らかく、甘味も強い品種です。また、早生で生育が揃いやすいことから、石川県ではかぶらずし用の青首中蕪として栽培されています。
青首中蕪「百万石」の栽培方法
1.栽培に適した環境
青カブは冷涼な気候を好みます。
石川県の栽培資料では、15~22℃でよく生育し、26℃以上になると高温障害によって良品を生産しにくくなるとされています。
低温には比較的強いですが、8℃以下では根部の肥大が著しく悪くなります。
栽培場所は、次のような条件を満たすところを選びます。
- 日当たりがよい
- 適度な保水性がある
- 雨の後に水がたまらない
- 土が深く、石や大きな土の塊が少ない
土壌への適応性は比較的広い品種ですが、形や肌のきれいなかぶを育てるには、保水性と排水性のバランスがよい土が適しています。
排水の悪い場所では、畝を高めに作りましょう。
2.連作を避ける
カブは、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、ブロッコリーなどと同じアブラナ科の野菜です。
同じ場所でアブラナ科野菜を続けて栽培すると、根こぶ病などの土壌病害が発生しやすくなります。石川県の栽培基準でも、前年にアブラナ科野菜を栽培した圃場は避けるよう示されています。
「百万石」は根こぶ病耐病性に優れていますが、連作を避け、排水対策や土壌酸度の調整など、基本的な予防対策もあわせて行います。
3.種まき時期
石川県での種まき時期は、8月下旬から9月中旬頃が目安です。
早くまきすぎると、残暑による高温で発芽や初期生育が不安定になり、害虫の被害も受けやすくなります。
一方、種まきが遅れると、気温が下がるまでに十分な葉数を確保できず、かぶらずし用として必要な大きさまで根が肥大しないことがあります。
年によって残暑の厳しさは異なるため、暦だけでなく、気温や天候も確認しながら種まき時期を決めましょう。
4.畑の準備
種まきの1~2週間前までに、苦土石灰を施して土壌酸度を調整し、よく耕します。
根こぶ病の予防対策として、石灰資材を用いて土壌pHを6.5以上に調整します。
その後、完熟堆肥と元肥を施し、土とよく混ぜます。元肥は種まきの7日ほど前までに施し、畝を作っておきます。
カブは根部を収穫する野菜です。土中に石や硬い土の塊、未熟な堆肥などがあると、根の変形や表面の荒れにつながることがあります。
土を深めに耕し、土の塊を細かく砕いておくことが大切です。
2条まきの場合の畝幅は、120cmが目安です。家庭菜園では、管理しやすい幅に調整しても構いません。
5.種のまき方
畝の表面を平らにならし、浅いまき溝を作ります。
種を数粒ずつ点まきするか、間隔を空けて筋まきし、約1cmを目安に覆土します。種まき後は土を軽く押さえ、種と土を密着させてから、たっぷりと水を与えます。
シーダーテープを使用する場合は、約1cmの深さに敷設し、覆土します。
発芽するまでは、土の表面を乾燥させないように管理します。
ただし、水がたまった状態が続くと、発芽不良や根傷みの原因になるため、過湿にも注意しましょう。
6.間引きと株間
発芽後は、生育のよい株を残しながら、2回程度に分けて間引きます。
1回目の間引き
本葉2.5~3枚頃を目安に行います。
小さい株や葉が変形している株、害虫の被害を受けた株などを除き、2本程度にします。種まき後15日頃が一つの目安です。
2回目の間引き
本葉6~7枚頃に、最終的に1か所1本にします。
種まき後25~30日頃が目安です。間引きが遅れると株同士が競合し、根の肥大も遅れるため、適期を逃さないようにします。
最終的な株間は、14~16cm程度が基準です。
間引く株を強く引き抜くと、残す株の根を傷めることがあります。株元が混み合っている場合は、ハサミで地際から切り取ります。
7.追肥と土寄せ
2回目の間引き後から、生育を見ながら追肥を行います。
肥料は株元に直接触れないよう、条間や畝の肩などに施します。その後、肥料と土を軽く混ぜながら土寄せを行います。
追肥の目安は次のとおりです。
- 1回目:種まき後25日頃
- 2回目:種まき後40日頃
- 3回目:種まき後55日頃
- 4回目:種まき後70日頃。ただし、生育に応じて施用
追肥の回数や量は、土質、元肥の量、生育状況によって調整します。
生育の早い時期に肥料が切れると、根にスが入りやすくなります。一方、収穫間際まで肥料を強く効かせると、変色などの品質低下につながるため注意が必要です。
8.水やり
畑での栽培では、通常は降雨を利用して育てますが、次のような場合には水やりが必要です。
- 種まき後から発芽まで
- 発芽直後の苗が小さい時期
- 晴天が続き、土が乾燥しているとき
- 根が肥大する時期に雨が少ないとき
土が極端に乾燥すると根の肥大が止まり、その後の雨や水やりによって急激に水分を吸収すると、根が割れることがあります。
水を与えるときは、表面だけでなく、土の内部まで染み込むように与えます。
常に湿った状態にするのではなく、極端な乾燥と過湿を避けることがポイントです。
9.主な病害虫
青カブは、種まき直後から生育初期にかけて、害虫の被害を受けやすい野菜です。
主な病害虫は次のとおりです。
主な病気
- 根こぶ病
- べと病
- 白斑病
主な害虫
- キスジノミハムシ
- ダイコンサルハムシ
- アブラムシ
- アオムシ
- ヨトウムシ類
- コナガ
- カブラハバチ
- ネキリムシ
特に発芽直後の葉を食害されると、その後の生育や根の肥大に大きく影響します。
種まき後から防虫ネットを掛けておくと、害虫の侵入を減らすことができます。ネットの裾に隙間ができないよう、土や固定具でしっかり押さえます。
また、ネットを掛けた後も、葉の表裏を定期的に確認しましょう。
コナガ、アオムシ、ヨトウムシ類は、幼虫が小さいうちの早期発見と防除が重要です。
農薬を使用する場合は、使用時点でカブに登録のある農薬を選び、ラベルに記載された使用方法、希釈倍率、使用回数、収穫前日数を必ず守ってください。
10.寒さや雪への対策
「百万石」は秋から冬にかけて栽培しますが、収穫前に霰や雪、強い風雨に遭うと、葉や根の表面が傷むことがあります。
霰、雪、風雨による傷みが懸念される場合は、11月下旬頃から不織布などをべた掛けします。
不織布を掛けることで、強い風や霰による傷を軽減できます。
ただし、気温が高い時期から長期間掛けたままにすると、蒸れや病気の原因になることがあるため、天候を見ながら使用します。
11.収穫時期
「百万石青首蕪」の収穫目安は、種まき後55~65日頃です。
在来の金沢青カブが種まき後65~75日程度であるのに対し、「百万石」は比較的早く収穫できる早生品種です。
通常の収穫目安は、直径9.5~11cm程度です。
かぶらずし用に使用する場合は、厚く切ってブリを挟める大きさまで育て、目的の大きさに達したものから順次収穫します。
必要以上に畑へ置き続けると、次のような品質低下が起こることがあります。
- 根にスが入る
- 根が割れる
- 肉質が硬くなる
- 根の表面が傷む
- 病害が発生する
収穫時期が近づいたら、試しに1株抜き、根の大きさや肉質を確認するとよいでしょう。
収穫するときは、葉の付け根を持ってまっすぐ引き抜きます。根が大きく抜けにくい場合は、周囲の土を軽く緩めてから収穫します。
収穫した「百万石」の楽しみ方
「百万石」は、かぶらずしだけでなく、さまざまな料理に利用できます。
肉質が緻密で軟らかく、甘味が強いため、漬物やスープなど幅広い料理に向いています。
かぶらずし
厚めの輪切りにしたかぶらに切り込みを入れ、塩漬けしたブリを挟みます。
米糀、人参、柚子などとともに漬け込み、寒い時期にゆっくりと発酵させます。
浅漬け・甘酢漬け
緻密で軟らかく、甘味のある肉質を生かし、薄切りにして浅漬けや甘酢漬けにします。
首部の青色を残すように切ると、白と緑の色合いも楽しめます。
煮物・スープ
火を通すことで軟らかくなり、カブの甘味を楽しめます。
和風の煮物のほか、ポトフやクリームスープにも利用できます。
葉も料理に
収穫した葉が新鮮で傷んでいなければ、炒め物、菜飯、ふりかけ、汁物などに利用できます。
