Introduction
秋そばは、夏に種をまき、秋に収穫するそばです。
名前から「秋に種をまくそば」と思われることがありますが、一般的には秋の収穫に向けて、7月下旬から9月頃に種をまきます。ただし、適期は地域の気温、標高、品種、初霜の時期によって大きく異なります。
そばは比較的生育期間が短く、水田転作や遊休農地の活用にも取り入れられている作物です。一方で、湿害に弱いため、安定して栽培するには種まき前の排水対策が重要になります。
この記事では、秋そばの種まき時期、必要な種子量、畑の準備、水田転作での排水対策から収穫までを解説します。
秋そばとは
秋そばとは、秋に収穫する作型のそばを指します。
「秋そば」という名前ですが、秋になってから種をまくのではありません。多くの地域では夏から初秋に播種し、気温が下がる秋に成熟・収穫を迎えます。
地域や栽培条件によって異なりますが、播種から収穫までの期間は、おおむね2か月から2か月半程度です。新潟県の栽培資料では、秋そばは播種後約4週間で開花期を迎え、約10週間で成熟期・収穫期に達する生育モデルが示されています。
秋そばには、主に次のような利用方法があります。
- 玄そばとして収穫し、そば粉やそば料理に利用する
- 水田転作作物として栽培する
- 遊休農地や耕作放棄地の活用に取り入れる
- 白い花を生かして景観形成に利用する
- 開花期まで育て、緑肥として畑へすき込む
食用として収穫する場合は、収穫後に十分な乾燥、脱穀、選別が必要です。
秋そばの種まき時期
秋そばの種まき時期は、地域、標高、品種、初霜の時期によって異なります。
一般的には、冷涼地や山間地では早めに、温暖な平坦地ではやや遅めに播種します。
冷涼地・標高の高い地域
7月下旬~8月中旬頃
中間地・一般的な平坦地
8月上旬~8月下旬頃
暖地
8月下旬~9月上旬頃
ただし、これは全国的な目安です。実際の播種日は、その地域で栽培されている品種や、農業改良普及センター、JAなどの栽培暦を優先してください。
播種時期を決める方法の一つが、地域の初霜から逆算する方法です。鹿児島県のそば栽培指針では、秋播き栽培は「初霜の時期からおおむね80日前」を目安に播種期を決めるとされています。
種まきが遅れるとどうなる?
そばは比較的短期間で生育しますが、播種が遅すぎると、十分に成熟する前に気温が下がったり、霜に当たったりする可能性があります。
その結果、次のような問題が起こりやすくなります。
- 生育期間が不足する
- 開花や結実が遅れる
- 未熟な実が増える
- 収量が低下する
- 霜によって生育が止まる
一方、早くまきすぎても、高温による結実不良や過繁茂、倒伏につながる場合があります。茨城県では、県北地域は8月中旬、それ以外は8月下旬を播種適期とし、高温が予想される場合には地域慣行よりやや遅い播種も検討するとしています。
地域の気象条件に合った適期播種が重要です。
秋そばの必要な種子量
そばの播種量は、品種、発芽率、播種方法、土壌条件、使用する播種機などによって変わります。
一般的な目安は、10a当たり5~6kg程度です。鹿児島県のそば栽培指針でも、播種量を10a当たり5~6kgとしています。
10aは1,000平方メートルです。
種子量別の栽培面積の目安
10a当たり5~6kgを播種する場合、種子量ごとの栽培面積は次のとおりです。
1kgの場合
約1.7~2a
約170~200平方メートル
5kgの場合
約8.3~10a
約830~1,000平方メートル
10kgの場合
約16.7~20a
約1,670~2,000平方メートル
20kgの場合
約33.3~40a
約3,330~4,000平方メートル
※10a当たり5~6kgで計算した目安です。
散まきでは、播種むらや鳥による食害、覆土のばらつきなどを考慮して、条まきより多めの種子が必要になる場合があります。
反対に、播種機を使って均一に条まきできる場合は、種子量を抑えやすくなります。実際の使用量は、栽培地域の基準と播種機の設定をご確認ください。
畑の準備と種まき方法
そばは初期生育が比較的早い作物ですが、種まき時の土壌状態が発芽の揃いを大きく左右します。
特に重要なのは、次の3点です。
- 排水をよくする
- 土を細かく砕く
- 種を深く埋めすぎない
種まき前に排水対策を行う
水田転作や水のたまりやすい畑では、耕起・整地の前後に排水溝を設けます。
播種した後に排水溝を作ろうとしても、種や芽を傷める可能性があります。圃場周囲の明渠や、圃場内の排水溝は、できるだけ播種前に準備しましょう。
土を細かく砕いて整地する
土の塊が大きいままだと、種と土が密着せず、発芽が揃いにくくなります。
特に水田転作圃場では、土が湿りすぎた状態で耕起すると、大きな土塊が残りやすくなります。耕起する時期を見極め、適度に乾いた状態で砕土・整地します。
条まきと散まき
そばの播種方法には、主に条まきと散まきがあります。
条まき
一定の間隔で播き溝を作って種をまく方法です。
条まきは、播種量を調整しやすく、中耕や培土、手刈りなどの管理もしやすいのが特徴です。
鹿児島県の栽培指針では、畝幅50~70cmの播き溝に種をまき、2~3cm覆土する方法が示されています。
散まき
圃場全体へ均一に種を散布する方法です。
広い面積へ短時間で播種しやすい一方、種を均一に散布する技術が必要です。散布後はロータリーなどを使って浅く土と混和します。
鹿児島県の栽培指針では、全面へ種子を均一に散布した後、ロータリーで表層5~6cm程度に混和する方法が示されています。
ただし、ロータリーを深くかけすぎると、種が深く入り、発芽が不揃いになることがあります。
覆土後は軽く鎮圧する
種をまいた後は、種と土が密着するように軽く鎮圧します。
鎮圧には、土壌中の水分を種へ伝えやすくし、発芽を揃える効果があります。ただし、水はけの悪い粘土質圃場を強く鎮圧すると、表面が固くなったり、水が抜けにくくなったりすることがあります。
土壌条件に合わせて調整してください。
肥料は多く与えすぎない
そばは、肥沃すぎない土地でも比較的生育しやすい作物です。
肥料、特に窒素肥料を多く与えすぎると、茎葉ばかりが大きくなり、倒伏や結実不良につながることがあります。
石川県の持続性の高い農業生産方式の導入指針でも、そばの病害予防に向けて排水を良くし、窒素肥料の過剰施用を避けることが示されています。
「やせ地でも育つから無肥料でよい」と一律に判断するのではなく、前作、土壌の肥沃度、残肥、地域の施肥基準を確認して肥料を決めましょう。
水田転作圃場では、前作の肥料分が残っていることもあります。
水田転作でそばを栽培するポイント
水田転作で秋そばを栽培する場合、最も重要なのが排水対策です。
そばは湿害に弱く、種まき直後から生育初期に水がたまると、発芽不良、根傷み、生育停滞などが起こりやすくなります。
長野県でも、秋そばの安定生産に向けて、適期播種とともに排水対策が重点的に指導されています。実際に、水はけの悪い圃場では、多雨による湿害と生育抑制が確認されています。
圃場周囲に明渠を設ける
まず、圃場の周囲に明渠を設け、圃場外へ水を流せるようにします。
排水溝を作っても、その先がふさがっていたり、排水口が高かったりすると、水は流れません。必ず排水先まで確認します。
圃場内にも排水溝を入れる
圃場が広い場合や、土壌の透水性が低い場合は、周囲の明渠だけでは十分に排水できません。
圃場内にも排水溝を設け、周囲の明渠へつなぎます。水のたまりやすい低い場所には、重点的に溝を設けましょう。
圃場の高低差を確認する
一見平らに見える圃場でも、わずかな高低差によって水が集中する場所があります。
大雨の後に水がたまる場所を確認し、必要に応じて排水溝を追加します。
播種直後の大雨に注意する
播種直後に強い雨が降ると、次のような問題が起こります。
- 種が流される
- 種が深く埋まる
- 土壌表面が固まる
- 排水不良部分で種が腐る
- 発芽したばかりの根が傷む
天気予報を確認し、大雨が予想される直前の播種はできるだけ避けます。
発芽時に大きな台風被害を受けた場合には、播き直しが必要になることもあります。
開花から収穫まで
秋そばは、播種後およそ1か月で開花が始まります。
一斉にすべての花が咲くわけではなく、下部から順次開花しながら実が成熟していきます。そのため、同じ株の中に、花、未熟な実、黒く成熟した実が同時に見られることがあります。
収穫時期の目安
実の黒化状況を確認しながら収穫時期を判断します。
茨城県のそば生産振興方針では、品質や風味の低下を防ぐため、黒化率80~90%での適期収穫を推奨しています。
一方、地域や収穫方法によっては、黒化率70~80%程度を収穫の目安とする場合もあります。
完全にすべての実が黒くなるまで待つと、先に成熟した実が落ちる「脱粒」が増えることがあります。
収穫後の作業
食用として利用する場合は、収穫後に次の作業を行います。
- 刈り取り
- 乾燥
- 脱穀
- 選別
- 保管
刈り取ったそばは、雨に当てず、速やかに乾燥させます。
鹿児島県の栽培暦では、乾燥機を使用する場合、乾燥温度が30℃以上になると品質が低下するため、できるだけ30℃以下で乾燥するよう示されています。
茎葉、未熟粒、土砂、雑草種子などを取り除き、十分に乾燥させてから保管します。
緑肥や景観用として利用する場合
そばは生育が早く、白い花がまとまって咲くため、景観作物としても利用できます。
また、収穫せずに畑へすき込むことで、植物体を有機物として還元する利用方法もあります。緑肥のすき込みは、畑への有機物供給や土壌環境の改善に役立ちます。
緑肥としてすき込む時期
緑肥として利用する場合は、茎葉が硬くなりすぎる前にすき込みます。
種子が成熟してからすき込むと、こぼれた種が発芽し、次に栽培する作物の雑草になる可能性があります。翌作への影響を避けるため、種子が本格的に成熟する前に刈り取り、すき込むのが基本です。
すき込み後は、植物体が土中で分解する期間を確保してから、次の作物を植え付けます。
※緑肥・景観用として使用する場合も、圃場条件や後作に適した栽培計画を立ててください。
秋そば栽培でよくある失敗
水がたまり、発芽しない
そば栽培で特に多い失敗です。
種まき前に排水溝を作り、水が圃場外へ流れる状態にしておきます。播種後に大雨が降った場合は、早めに圃場を確認しましょう。
肥料が多く、倒伏する
窒素肥料が多すぎると、茎葉が伸びすぎて倒れやすくなります。
前作の残肥や土壌の肥沃度を考慮し、過剰施肥を避けます。
種まきが遅れ、成熟しない
播種が遅れると、低温や霜が来るまでに成熟できない場合があります。
「夏の作業が終わってから」ではなく、地域の播種適期から逆算して圃場準備を進めましょう。
種を深くまきすぎる
深く埋まった種は、地上へ芽を出すまでに力を消耗し、発芽が不揃いになります。
土壌や播種方法に合わせ、浅めの覆土を基本にします。
収穫が遅れ、実が落ちる
すべての実が黒くなるまで待つと、先に成熟した実が落ちることがあります。
黒化率を確認し、地域の収穫基準と天候を見ながら適期に収穫します。
鳥に種を食べられる
播種後、種が地表に残っていると鳥害を受けることがあります。
種が見えない程度に覆土し、土と密着するよう軽く鎮圧します。
秋そば栽培は、適期播種と排水対策がポイント
秋そばは生育期間が比較的短く、水田転作や遊休農地にも取り入れやすい作物です。
一方、湿害に弱いため、安定した発芽と生育には、播種前の排水対策が欠かせません。
栽培を始める際は、次の点を確認しましょう。
- 地域と品種に適した時期に種をまく
- 10a当たり5~6kgを播種量の目安にする
- 種まき前に明渠や排水溝を設置する
- 肥料、特に窒素を多く与えすぎない
- 種を深く埋めすぎない
- 黒化した実の割合を確認して収穫する
地域によって適期や施肥量が異なるため、各都道府県の栽培指針や、地域の農業改良普及センター、JAなどの栽培暦もあわせてご確認ください。
秋そば「信州在来(アメリカ産)」を販売しています
「地方のタネ・暮らしのタネ」では、秋そば「信州在来(アメリカ産)」を販売しています。
栽培面積に合わせて、1kgから20kgまでお選びいただけます。
水田転作、畑作、景観利用など、必要な面積に合わせてご注文ください。
※播種時期、播種量、栽培方法は地域や圃場条件によって異なります。商品袋の表示と地域の栽培基準をご確認のうえ栽培してください。
参考資料
本記事は、以下の公的機関等が公表している栽培資料を参考に作成しています。
・新潟県「そば栽培に関する資料」
・茨城県「そば生産振興方針」
・長野県「秋そばの安定生産に関する資料」
・鹿児島県「そば栽培技術指針・栽培暦」
・石川県「持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針」
